将太の寿司/寺沢大介

この漫画は、どうも着地点が定まりきらず、ふわふわした印象がある。
これが同じ作者のミスター味っ子ならもっと無茶苦茶な理屈で外連味のある演出を見せてくれたのだが、
寿司というフィールドであるせいか、時代が下ったせいか、
丸っこかった絵柄が骨っぽくなるとともに演出がおちついて、
しかしその筋の部分は一緒なので、どうにも違和感がある。
見せ方などうまいだけに非常に残念だ。


この作品で一つ、強く印象に残ったシーンがある。
全国大会編13巻、ライバルの高田早苗が卵焼きをつくるシーンだ。
じっくりと卵を溶き、そのまま放置すると溶き卵が自分の重みで潰れて
空気を押し出し、プリンのような卵焼きができる。
一晩かけて卵の中から空気がでていくというシーンは、なんだかひどく好もしく感じられる。
じわり、じわりと空気が追い出され、
ぽこり、ぽこりと小さな気泡がたつ。
この様子をじっと思い浮かべると、何だか幸せな気分になる。